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トランスヒューマニズムの50年後の未来〜テクノロジーは人体を置き換えるか?〜

2020.11.03 00:12

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目次

1.トランスヒューマニズム/トランスヒューマンとは?

2.実在するトランスヒューマンたち

3.トランスヒューマニズムの50年後とその未来



トランスヒューマニズム/トランスヒューマンとは?

トランスヒューマニズム/トランスヒューマンは、誤解を恐れずに言えば「サイボーグ」という言葉が近いかもしれない。

正しく言えば、トランスヒューマニズムとは、テクノロジーによる人間の拡張により、人間の生物学的な限界を超越しようとする思想および運動、哲学のことを指す。

また、トランスヒューマンとは、テクノロジーによって拡張された人間のことを示す言葉だ。

サイボーグといえば、SFファンであれば攻殻機動隊シリーズの「義体化」やメタルギアシリーズの雷電などで馴染みがあるだろう。

しかし、もはや彼らはフィクションではない。テクノロジーで自らを拡張し、「トランスヒューマン」と化した人々は実際に存在する。

今回は、そんなトランスヒューマニズムとその未来について紹介していく。



実在するトランスヒューマンたち

1. FM-2030

FM-2030

出典: wikipedia


驚くべきことに、FM-2030はニックネームではなく、彼の本名だ。生まれた時の名はFereidoun M. Esfandiaryであったが、1970年代半ば、彼は合法的に2つの主な理由で名前をFM-2030に変更した。

第1に、2030年に生誕100周年を祝うための信念を反映するため。第2に、一般的な「名付け」の慣習は人類の部族的な過去の遺物としてのみ存在すると考え、その慣習を打破するため。彼は1930年生まれであったため、実際に身体を拡張するには至らなかったが、1989年に出版された著書 Are You Transhuman?などにより、トランスヒューマニズムの思想に大きな影響をもたらしている。

なお、彼の2030年まで生きるという夢は叶わず、2000年7月8日、膵臓癌で亡くなっている。


2. Neil Harbisson(ニール・ハービソン)

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出典: davidvintiner


アーティストであるニール・ハービソンは、完全な色盲として生まれた。

しかし、彼の頭骨に埋め込まれたデバイスは、光のスペクトルを検出して振動に変換する特殊する機能を持っている。つまり、「色を音に変換」しているのである。

ハービソンが実際に目で見る世界は白黒だが、彼は色を音として聴くことができる。我々には想像もつかないことだが、色鮮やかな景色が彼には音として聞こえているのだ。

彼は、自身の好きな色が「赤外線」だと言う。もちろん、普通の人間には見えるはずがない。彼の話によれば、赤外線は低い周波数をもち、穏やかだという。

ハービソンは新しい感覚を創造すれば、脳はそれを理解する知性を生み出すと主張しており、自らの考えをより発展させるために、「Cyborg Foundation(サイボーグ財団)」を設立し、研究に努めている。



3. Rob Spence(ロブ・スペンス)

spence

出典: davidvintiner


「アイボーグ」ことロブ・スペンスは、9歳のときにショットガンの事故で右目を損傷した。その後34歳で、医者の命令の下で、目は取り除かれることになった。

それからスペンスは、子供の頃に600万ドルの男が好きだったこともあり、目をカメラに変える方法を研究し始めた。

彼が作成した小型のカメラは、撮影中は赤く光り、まるでターミネーターのT-800ようにも見える。

しかし常にカメラを右目部分に装着しているわけではなく、撮影自体は最大30分程度しか行えない。したがって、いつもはカメラを起動せず、眼帯でカメラを隠すことも多いという。

ちなみに、彼はスクウェア・エニックスのゲーム「デウスエクス」の発売に合わせて、スクウェア・エニックスから実写版サイボーグとして撮影の依頼を受けたこともあるらしい。



4.James Young(ジェームズ・ヤング)

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出典: davidvintiner


ジェームズ・ヤングは、2012年に事故で腕と脚を失った。

バイオテクノロジーに興味があり、特にSFの美学に惹かれていた彼にとって、最新のテクノロジーを利用して自らの身体を「再構築」していく過程は、彼の回復プロセスの一部でもあったという。

しかし、医師から提示された肌色のシリコンスリーブの標準的な手足は、彼にとってあまり喜ばしいものではなかったようだった。

そこで日本の大手ゲーム会社KONAMI(!)が、義肢彫刻家のソフィー・デ・オリベイラ・バラタと協力して、彼のためにバイオニック手足をデザインした。

こうして完成したグレーのカーボンファイバーの腕と脚は、ヤングのお気に入りのビデオゲームのある「メタルギアソリッド」に影響を受けているそうだ。

彼のロボットアームには、USBポート、ツイッターのフィードを表示するスクリーン(!!)、格納式のドックなどの機能が備わっている。



トランスヒューマニズムの50年後とその未来

これまで、現在のトランスヒューマンたちを紹介してきたが、果たしてトランスヒューマニズムの未来はどのようなものになるだろうか?

トランスヒューマニズムは、「人間の能力は、科学によって改善・発展させることが出来る」というものであるが、これに対して「人間の尊厳」の立場から反対を唱える人々もいる。

義手や義足、あるいは人工臓器などの観点から言えば、今後トランスヒューマニズムは加速していくように思えるが、反対の声もある以上、簡単には未来を予想することはできないだろう。

そんな中で、1998年のトランスヒューマニスト宣言の共著者の一人であるナターシャ・ビタ=モアは、50年後には、私たちは代替の身体に注目し、義肢装具の分野でさらに成長していることがわかると思いますと主張している。


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出典: Flickr/CC


彼女によれば、我々は信じられないほど脆弱な乗り物、すなわち人体を使って存在しており、いつか何かがうまくいかなくなる可能性があるのだという。つまり、技術を用いて何らかの対策をとる必要がある、ということだ。

彼女を始めとするトランスヒューマニストは、人間の寿命を根本的に延ばすことができると考えており、最終的には病気による死をなくすことができると信じている。そのためには、脳のバックアップが必要であるとまで言っている。

宗教的または道徳的な理由でトランスヒューマニズムに反対する人々に対しては、ナターシャ・ビタ=モアはこう主張する。

宗教は社会の状況とその中の人々の状態に合わせていかなければならないということに気づくでしょう

いささか想像しがたい話ではあるが、未来とは常にわからないものだ。この先の未来がどんな姿か、トランスヒューマニズムを通して少しでも考えてもらえたら幸いだ。